心電図でわかるQT延長症候群の診断基準とは
QT延長症候群とは心臓の興奮からの回復が遅れることにより起きる心臓疾患です。
動悸や失神だけでなく、重症なときは心停止、突然死にもつながる注意すべき疾患です。今回はQT延長症候群に特徴的な心電図とその診断基準を紹介します。
1.QT延長症候群とはどのような病気か
心臓は刺激伝導系にそって規則正しく収縮が行われており、プルキンエ線維まで電気刺激が伝わったあと次第に興奮が収まります。
このプルキンエ線維に電気刺激が到達してから興奮が収まるまでの時間をQT時間と言い、正常時間は0.36~0.48秒です。
QT延長症候群はこの再分極過程を反映するQT時間が延長し、トルサデポアン(Torsades de pointes(TdP)という特徴的な多型性心室頻拍が出現し、失神や突然死の原因となりうる症候群です。
原因は先天性のものと二次性のものとに分けられます。
2.先天性QT延長症候群
①原因
先天性QT延長症候群は細胞膜に存在するイオンチャンネルの異常により起こります。
遺伝性の疾患で現在では8つの染色体上に12個の遺伝子型の異常が報告されています。
遺伝子型により重症度や発作を引き起こす誘因が異なっており、薬剤、水泳を中心とする激しい運動、驚愕などの興奮などがその誘因となります。
②診断基準
診断基準は心電図所見、家族歴、病歴、遺伝子型などから行われ、Schwartzらの診断基準が最も広く用いられています。
※Torsades de pointes(TdP)
TdPとはQRSの振幅が基線を中心にねじれる様に変動する特徴を有する多型性心拍。自然停止することもあるが、心室細動へ移行し突然死することもある。
※T wave alternans(T波交互脈)
体表面心電図でT波が1心拍ごとに交互に変化する波形。
③治療法
先天性QT延長症候群の治療としては、薬物治療(β遮断薬、抗不整脈薬、硫酸マグネシウムなど)や発作誘因となる運動の制限や薬剤の制限などで、それでも致死的発作のコントロールが難しい場合にはペースメーカーやICD(植え込み型除細動器)の適応となります。
3.二次性QT延長症候群
①原因
二次性QT延長症候群は薬剤や徐脈の影響が原因となります。
薬物誘発性、電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症、低カルシウム血症)、徐脈性不整脈(房室ブロック、洞不全症候群)、心疾患(心筋梗塞、急性心筋炎、重症心不全、心筋症)、中枢神経疾患(クモ膜下出血、頭部外傷、脳血栓症、脳外科手術)、代謝異常(甲状腺機能低下症、糖尿病、神経性食欲不振症)などがその要因となりえます。
原因薬物には抗不整脈薬(Ⅰ群薬、Ⅲ群薬)、フェノアチジン系・三環形抗うつ薬などの向精神薬、シメチジンなどのH2受容体拮抗薬、シサプリドなどの消化管運動促進薬、高脂血症薬、有機リン中毒などがあります。
②診断基準
二次性QT延長症候群では、QTc(補正QT時間間隔)が薬剤投与後に25%以上延長するか、500msec以上となることが診断基準となります。
多くは原因薬物などの誘因が除去されるとQT時間は正常化します。多くの場合安静時のQT時間は正常上限か境界域(QTcで420~460ms)のことが多くなります。
③治療法
TdP(トルサデポアン)発作時にはQT延長の誘因の除去が第一となります。原因薬物の中止、電解質の補正、徐脈がその誘因となっている場合は一時的なペーシングや薬剤による徐脈への治療を行います。
最後に
いかがでしたか?QT延長症候群は致命的にもなりうる危険な疾患です。
特に先天性QT延長症候群では学童期など若いときに発症することも多く、患者さんや家族の不安も大きいです。
危険な徴候に早く気づくとともに精神的なサポートも重要です。