【透析患者の看護】ワガママ、気難しいは先入観?
看護師が勤務する数ある診療科の中で、透析室勤務はどのようなイメージをお持ちですか?
人工透析は、患者さんの生活に密着した治療です。そして看護師の向き不向き、好き嫌いが大きく分かれる分野です。透析機械の操作が大変そう、シャント穿刺に緊張する、等の声も聴かれますが、もっとも強い透析室勤務のイメージは、患者さんとの関りが難しそうという声です。
しかし、その先入観ちょっと待ってください。私の透析室経験を元に、透析患者さんの心の声、看護師との関りについてお話していきたいと思います。
「あんた看護師かもしれないが、透析はこっちがベテラン」と患者さんが言ってくる
透析患者さんは、個性が強くワガママな人が多いと言われています。
看護師目線で見ると「早くしろ」「穿刺は〇〇さん以外させない」「いちいちうるさい」といったような患者からの小言、要望が多いとウンザリしてしまうのはよくわかります。
透析室で勤務し始めたころは、患者からも値踏みされるようなことを言われたり、何もしていないのに拒絶されたりして、それまでベテラン看護師としてノビノビ働いていた自分のプライドはとても傷つきました。
そして、ワガママ放題の患者さんを憎らしく感じはじめ、辞めようかなあと考え始めた頃。ある患者さんから言われた言葉です。
「あんた看護師かもしれんけど、こっちは生きるために何十年も透析してるベテランなんやで、それを分かっとかなあかんねんで」
なるほど、命をつなぐために何十回、何百回、何千回と透析をしてきた人達にどう向き合うのか。そういう視点で考えてみようと目から鱗の言葉でした。私はこの言葉を聞いて、透析看護師を続けようと思いました。
患者さんはお客様?看護師はただのサービス提供者なのか
透析患者さんは、自分が透析に通うことでその病院に利益をもたらしている、自分はお客様だ。という自覚を持っている方も多いです。それは間違いではありませんね。病院や看護師は自分たち透析患者に感謝するべき、透析患者の要望は聞くのが当たり前だという考え方を貫いている患者さんもいます。
逆に、国民が支払う健康保険料、税金によって自分たちの透析費用がまかなわれている、ありがたいという余裕のある気持ちを持って治療を受けている患者さんもいます。
透析治療は、患者様の実質負担は多くないとはいえ保険償還される額は相当です。透析病院は、透析患者さんがいないと経営は成り立ちません。透析患者さんを確保したいというのが本音です。
だからと言って、「患者さんはお客様」とワガママを全て受け入れることは出来ないのは当然のことです。看護師は医療従事者でもあり、サービス提供者でもある、両方の立場をバランスよく演じ分けることは看護師のストレス回避に必要かもしれません。
患者のワガママや気難しさ、実はささやかな希望であると知って
透析患者は、日常生活の制限が多くあります。特に食生活や水分制限は健常者には想像を絶するつらさだと思います。透析患者さんから「死ぬときに思いっきりイチゴやメロン、柿など新鮮なフルーツを食べてみたい」という冗談は良く聞きます。
また患者さんは「透析を止めたら死んでしまう」という潜在的な恐怖にさらされています。災害関連のニュースは、透析患者さんをとても深刻な気分にさせるようです。透析に行くたびに、穿刺針を刺されてつらい時間を過ごさねばならないもどかしさも感じています。
そんなつらい状況の中、せめてシャント穿刺は自分の好きな看護師にやってもらいたい、と望むことは本当にワガママなのか?慣れない看護師とは関わりたくないと思うことは、いけないことなのか?
若い看護師に、自己管理について注意され悔しい思いをすることも少なくないでしょう。せめて他の患者に聞こえないように注意してほしかった、と怒りの感情がわくのは異常なのか?
一見ワガママや気難しさにおもえる透析賢者さんの言動。たくさんの制約の中で、せめてそこだけは自分の思い通りにしたい、というささやかな希望でもあるわけです。
暴力、暴言、度を越えた要求には毅然と対応することも必要
バイタルサインを測定中の看護師を急に殴る、足で蹴り上げる、物を投げつけるなどの暴力を受けることも無くはありません。
透析患者の期限を損ねたり、激昂させてしまうポイントはそれぞれですが、暴力をふるっていいわけではありません。また、必要以上に無視したり道徳に反する暴言も看過できません。
透析患者さんだから許される、というわけではない、という姿勢はチーム全体で共有するべきです。チームの中に容認するスタッフが一人でもいると統率が取れなくなってしまいます。ベテラン看護師の中には、若いスタッフへの暴力や暴言は、自分が間に入って割り込めばいいだけ、と簡単に考えている人も少なくありません。
暴力、暴言は人として許さない、という毅然とした態度でスタッフを守ってくれる上司がいるか、チームの姿勢は一致しているかがとても大切です。
まとめ
透析室はワガママで気難しい患者が多いと聞いている、絶対働きたくない。そんな先入観を持つことは悲しいことです。
一生関わる覚悟で患者さんに接することが出来る、それが透析看護の醍醐味です。命に直結するやりがいのある仕事です。転職を考える時、透析室勤務もぜひ選択肢に入れてもらいたいと思います。働きやすくやりがいのある職場、きっと見つかると思いますよ。